広井良典『無と意識の人類史』を読んだ

 広井さんの本は2冊目。若干被るところはあれど、こっちの本の方が著者の書きたいことを存分に書いている感じがした。死生観や円環的な時間、死者との繋がりや、未知なるもの、スピリチュアリティなどを大切にすることで2050年までの世界を見渡そうとしている。
 純粋に資本主義的な拡大成長路線には批判的で、シンギュラリティや不老不死、意識の移植についても近代的な枠組みの延長でしかないと批判的。いまもとめられているのは、第三の定常化に向けた新たな思想、倫理であるとする。その一端として、環境活動家のグレタ・トゥンベリの名前も本書には登場する。具体的な政策提言は先に読んだ人口減少社会のデザインの方が詳しい。以下、読みながらの殴り書きメモ。

イントロ

人間の生の有限性

  • 意識、身体の永続化
  • ハラリのホモデウス。残された課題は不死、幸福、神性。

地球の有限性

  • コロナ、異常気象

無と死を考える時代

  • AIはツールでありその能力を過大評価してはいけない
  • 地域密着人口 子供と高齢者。夢人口。死にちかい場所にいて「向こうの世界」との接点に近いところにいる。円環のイメージ。
  • 夢と現実、生と死の境界が薄まり、両者がクロスしていくような社会的変化が進んでいく
  • ハーバーマスはこれから「ポスト世俗化」が進むと言っている。非合理な見方が前景化してくる。バーチャルとリアルが連続化。
  • 無とともに生きる、無を力とする、という視点
  • 無についての探求が求められている

有限性の経済学

  • 経済社会、世界を無限の存在として考えてきた。資本主義システム。無限の資本蓄積。
  • マルクス。「資本の運動には限度がない」
  • マンデヴィル
  • 何が道徳的ないし倫理的にプラスとされるかは、行為それ自体によって決まるのではなく、その社会における富の総量(パイの大きさ)が有限であるか、無限に拡大しうるものであるかという状況によって規定される
  • 自由と世界の無限性の観念は深いところで繋がっている
  • 現代は資源環境の有限性、世界の有限性に向き合う状況

人類史における拡大成長と定常化のサイクル

狩猟採集社会 農耕社会 産業化工業化社会
心のビッグバン5万年前 枢軸時代、精神革命BC5世紀
定常化1 定常化2 定常化3
自然信仰 普遍宗教 地球倫理?
ゴンドワナ型神話 ローラシア型神話、哲学的宇宙論
個人の倫理 共同体の倫理 個人の倫理
  • 人類は拡大成長と定常化を3回繰り返してきている
  • 成長から定常化の時期に革命的な思想や観念が生成している
  • 物質的、量的拡大から精神的、文化的発展へ、という内容において共通している
  • 有限な地球、という概念は新しいもの
  • 地球倫理は次のような考え方をいう
  1. 資源環境の有限性の認識
  2. 各地域に風土に由来する文化宗教の多様性を理解しつつ
  3. 根底にある自然信仰を積極的にとらえていく
  • 地球倫理は、個人から出発して有限性を理解し、土台にある自然とのつながりを回復する、という世界観
  • 宗教を含め、人間の思想や観念が「環境」に依存していると言える
  • グローバルはローカルとユニバーサルの間を架橋して総合する概念に再定義される必要がある
  • 日本文化は自然との共生する志向を保持しており、西洋文明と比べて環境新和的に社会を築きうる立場にいる。環境保全が社会的に対応されていることとは別。公共的、社会的な視点からの対応が不足している。
  • 社会的課題解決の起業やティール組織は地球倫理の表れ。

神話の二つの型

ゴンドワナ型神話群 ローラシア型神話群
地域 アフリカ中南部、インドの非アーリア、メラネシア、オーストラリア ヨーロッパ、エジプトメソポタミアペルシャ、中国
伝播 アフリカからの人類の初期移動 アーリアスキタイ遊牧民の移動
ストーリー性 弱い、非時間的 強い、時間的秩序
自然宇宙 最初から存在 無からの創造
内容 トリックスター、木、粘土ら岩から作られる人類 神々の系譜、世界の秩序化、現世の終わりと再生
構造 狩猟採集社会後期 農耕〜都市、遊牧世界

無の人類史

  • 農耕社会になると一気に創造神を信じる比率が上がる。死の共同化。
  • 盆の習慣などは、リアルとバーチャルが交差融合している。現代ではほぼ失われてしまった。
  • 紀元前5世紀前後に死がなんらかの形で抽象的概念として把握されるようになった。
関連する基本概念 現世への態度 思想の性格 風土的背景
インド仏教 現世否定(苦) 宇宙原理、内在の極 森林
中国老荘思想 現世肯定 人間原理 中庸
ギリシャ自然哲学 空虚(原子論) 現世肯定 人間原理 中庸
ユダヤキリスト教 永遠の生命 現世否定(罪) 超越者原理、超越の極 砂漠
  • 紀元前5世紀、都市化されコミュニティや共同体での世代間継承は希薄化。抽象的概念がコミュニケーションのなかで生成。
  • 概念化された無や死のもつ実質的な意味を根底て支えていた共同体基盤や自然とのつながりが希薄になればなるほど、″個人は空虚な無としての死″に孤独な形で向かい合うことになり、自我にとっての根源的な″脅威″となる。それが起こったのが近代という時代であり、それは「無ないし死の排除」という点で特徴づけられる。その極北がカーツワイルやハラリの現代版不老不死の夢。世界を有で埋め尽くす世界観である。いま私たちはそれを乗り越える思想を構築すべき時期にきている。

火の鳥とアマテラス

  • 永遠の生命を象徴する火の鳥やアマテラスは性をこえた、すなわち「性と死」が生じる前の両性具有性かつ不死という性格をもっている
  • 性と死は起源がおなじ
  • 死を含む生命

まとめ

  • 現代は、人類史で見ると拡大成長から第三の定常化への移行期にあるが、より一層の拡大成長ベクトルとのせめぎ合いの時代にある
  • 拡大成長=人工光合成、宇宙進出、ポストヒューマン、こちらに著者は懐疑的
  • 人類は都度、資源や環境的な制約にぶつかった際に革新的な意識転換、従来にない思想や観念を生み出してきた。有限な環境下で無限の創造を志向してきた。
  • 近代社会における無あるいは死の排除に代わり、「有と無の再融合」と呼べる世界観が重要になると考えている
  • 有と無を連続的ととらえ、無を有を生み出すポテンシャル、エネルギーをもつものとして理解し、有あるいは存在の内部の事象についても、宇宙生命人間といったさまざまな次元を連続的なものとして把握し、個人を超えてコミュニティや自然生命宇宙ひいては有と無の根源と繋がる方向を志向する
  • 宇宙物理学が代表的存在。松原隆彦。
  • 存在と非存在が混ざり合った状態
立場 内容
a すべて機械的 物理的現象、機械論的原理で統一的に把握が可能。機械一元論 科学革命以後の近代科学、ニュートンダーウィニズム
b 人間/人間以外で境界 人間と人間以外の存在とに本質的な境界が存在する。精神と物質の非連続性 ユダヤキリスト教世界観、デカルト
c 生命/非生命 生命と非生命に本質的な原理の相違かまある ドリーシュ、エンテレヒー、シュレディンガー、負のエントロピー
d すべて連続的 非生命現象から人間の全体を貫く統一的な形式原理が存在する プリゴジン非平衡熱力学、自己組織化、ヘッケルなどエネルギー一元論、アニミズム
  • 機械論もアニミズムも一元論では同じ
  • 近代的自我にとって死は最大の難関。認知症は、救いや緩和策を与えてくれる側面を持っている。
  • 老年的超越 スウェーデンのトーンスタム 社会学者。80〜90代になると宇宙的超越的非合理的な世界観へ変化する。