『腸と脳』を読んだ

最近アトピーがひどく、アレルギー反応は腸内環境と関係があるということで読んでみた。最近でこそ腸は第二の脳、なんて言葉を見かけるようになったけど、ここまで色々とわかってきていたのか、と自分のこれまでの人体観がアップデートされた。具体的には、自己免疫疾患の作用機序から人の情動、更には意思決定、判断、慢性疾患、アルツハイマーのような脳疾患にも影響を与えているのではないか、と現在進行中で研究が進められている。腸と脳は相互にメッセージのやり取りを行なっていることを『腸脳相関gut-brain axis』という。

腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な振る舞いに影響を及ぼし、意思決定さえ導く。p17

また、腸は、体内で最大のセロトニン貯蔵庫でもあり、体内のセロトニンの95%は、腸内に納められているのだそうだ(p18)。SSRIなど抗うつ剤の話も出てくるけれど、鬱などの症状も腸と関わりがあるなんて。そうだったのか。そうであれば、心の健康は、微生物との適正なバランスを必要としていて、心と腸の結びつきが変化すると、脳に慢性疾患を引き起こす恐れがあるのだろうか?

体内のセロトニンの95%が腸内の特殊な細胞に含有されることがわかっている。そしてこの特殊な細胞は私たちが何を食べたかによって、またある種の腸内微生物が生成する化学物質によって、さらには情動状態を伝達する脳からのシグナルを受け取ることによって、影響を受ける。また注目すべきことに、セロトニンを含有する腸内の特殊な細胞ら脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と密接に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。p31

ふむ。腸の状態が日々のパフォーマンスに直結していそうな書き振りだ。随分と影響を受けそうだ。腸脳相関もそうだが、この本ではこの腸を含めた人体の生態系を『腸-マイクロバイオータ-神経系』または『脳-腸-マイクロバイオーム相関』と言い表している。

科学者は、腸と脳のコミュニケーションにおいては腸内微生物が重要な任務を遂行しているという事実に対する当初の驚きを克服し、腸とマイクロバイオームと脳が、つねに密接に関係し合っていることを最近の調査で明らかにした。そして、この三者を一つの統合的なシステムの構成要素とみなし、各構成要素同士で対話したりフィードバックを送りあったりしていると考えるようになった。本書では、ののシステムを「脳-腸-マイクロバイオーム」相関と呼ぶことにする。p109

何度か腸内の状況で自閉症発達障害にも影響が出る点が指摘されていた。

帝王切開で生まれた子供は危険な微生物クロストリジウム・ディフィシルが腸内にはびこりやすく、年齢を重ねてから肥満しやすい。自閉症を含む脳障害が発症しやすくなる……p135

情動の基盤が、腸や身体からまったく切り離された個室の脳によって生成されている可能性はあり得ないわけではないが、そのような脳は、限られた情動しか経験できないだろう。私の確信では、腸やマイクロバイオームの活動は、情動的感情の強度、持続性、個性の決定に重要な貢献を果たしている。p170

現代人の腸内はどうなっているのか?

腸活について書かれた本はたくさんあり、善玉菌、日和見菌、悪玉菌については2:7:1のバランスが崩れると良くないと言われている。腸内には膨大な数の微生物が生息しており、その多様性が失われつつあること、動物性脂肪の摂りすぎが悪玉菌を増やし、炎症分子が体内を巡って様々な炎症を起こすことが示されている。

  • 典型的なアメリカの食生活を身につけている人は、…腸内微生物の多様性が最大で1/3ほど失われている…私たちの体内の生態系のこの劇的な変化は…地球の生物多様性が1970年以来30%ほど失われてきたという概算とほぼ同じ数値を示しているp210
  • 私たちの身体の脂肪細胞、とりわけ腹部の脂肪(内臓脂肪)はサイトカイン、アディポカインなどの、血流に乗って体内を循環し、心臓、肝臓、脳に達する炎症分子の主要な源泉をなす。p232
  • 現在では、脂肪分の多い食事を一度摂るだけで、腸の免疫系が低悪性度炎症モードに陥る場合があることを、また、動物性脂肪の多い食物を常時口にしていると、肥満するはるか以前に、慢性的な低悪性度炎症が引き起こされることが明らかにされている。p232
  • 肥満、炎症性腸疾患、ならびにその他の自己免疫疾患は、腸内微生物の多様性の低下に結びつき、抗生物質の継続的な服用の結果発症することも多い。p276

本書が提案すること

  • 自然で有機的なマイクロバイオームを育成する
  • 動物性脂肪を控える

脂肪分の多い加工肉は、乳がん、結腸がん、前立腺がんを含めたいくつかの重病の発症リスクを高める。腸内微生物が行う腸の免疫系を介した脳へのシグナル伝達が脂肪分の摂取によって変化すると、神経系の構造や機能も変化をきたすことを示す科学的証拠が得られつつある。

  • 腸内微生物の多様性を最大化する

脂肪分の少ない肉も適量ならよし。

  • 大量生産された食品や加工食品は避け、なるべく有機栽培で育てられたものを食べる。
  • 発酵食品やプロバイオティクスを摂取する
  • 妊娠時には栄養とストレスに留意する

脳腸マイクロバイオーム相関に引き起こされた炎症は成長途上の胎児の脳を阻害する恐れがある

  • 食べすぎない
  • 断食をして腸内微生物を飢えさせる

1日以上腸内から脂肪分を締め出すことで、コレシトスキニンやレプチンなどのホルモンに対する迷走神経終末の感受性を回復させ、視床下部の感受性設定を正常なレベルに戻せるだろう。

  • 強いストレスを受けている時、怒っているとき、悲しい時は食べるのを控える

ネガティブ感情は脳腸マイクロバイオーム相関のバランスを崩す。

  • 皆で食事を楽しむ

それほど突飛な結論ではなく、結論だけ取り出せば、腸活関係の新書にも記載のある内容かもしれないなと思ったが、これらの内容の発見・研究が進んだのは2010年代で、本書に「○○によれば」と記載される実験も直近のものが多かった。想像以上に腸は我々の日々のパフォーマンスやQOLに直接的な影響を与えている、というのは今後「健康」を語る上で前提としなければならない、これらの議論を踏まえたものがスタンダードになるのだろう。

こちらの新書もざっと読んでみた。著者の光岡知足さんは腸内細菌学の大家で、ここでも従来の日本食には多くの発酵食品が含まれ、動物性脂肪が少なく…などが語られていた。光岡さんは毎日ヨーグルトを300g摂っているらしい。また自己免疫疾患の機序についても紙面が割かれていて、腸内がビフィズス菌優勢であれば免疫の誤作動は起こりにくいことの説明もあった。腸の働きについて基本的なことが学べる本だった。

自分の経験との照らし合わせ

 自分の経験を掘り返してみると、アトピーがひどくなった時、何をすれば良くなるかと言えば、確かに肉を控えること、油を控えること、野菜をたくさん食べることをしていたし、どういう生活をしていたときに悪化するかは、睡眠不足、外食の増加、など確かに腸にとってはあまり良くない生活をしていた時期のあとであることが多い。
 また、季節的に冬から春にかけて症状が悪化することが常態化しているのは、この時期の寒さで腸の働きが鈍ることに一因があるのではいか、と考えた。なるほど確かにこの1週間ほど体を温めて睡眠を良く摂りヨーグルトをたくさん食べて動物性食品を控えたところ、身体の炎症にはブレーキがかかった。調子の良いときに納豆など発酵食品を食べておいた方がいいな、と。もともと大豆製品にアレルギーがあり、普段の食事で納豆を食べることも、刺激物であるキムチを食べることも、また繊維の豊富な白米を食べることも無い。おそらく、筋トレをして肉食中心の食生活を続けていて、かなり慢性的に小規模の炎症を抱えたままの生活をしていたのではないか、と考えている。
 人にはそれぞれ(本当に多様なようだ)腸内細菌のバランスがあり、たぶん自分のそれは(母体との関係もあるだろう)ある年齢までに決定されるもので、およそ一般の人と比べると多様性に欠けて平衡性を維持する閾値が狭いのだろう。気をつけよう、という行動に移すことのできる啓発をされたい人にとって本書はとてもおススメな本であると断言できる。